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東京地方裁判所 平成11年(ワ)2270号 判決 2000年2月28日

原告

川口竜一

右訴訟代理人弁護士

米津稜威雄

(他七名)

被告

株式会社メディカルサポート

右代表者代表取締役

伊藤在光

右訴訟代理人弁護士

後藤寛

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告が被告に対して雇用契約に基づく権利を有することを確認する。

二  被告は原告に対し金五八万一八八〇円及び平成一一年二月二五日から毎月二五日限り金四四万七六〇〇円を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、被告を懲戒解雇された原告が、被告に対し、懲戒解雇が無効であるとして、原告が被告に対して雇用契約に基づく権利を有することの確認並びに平成一〇年一二月二五日に支払うべき未払賃金として金一三万四二八〇円、平成一一年一月二五日に支払うべき未払賃金として金四四万七六〇〇円、合計金五八万一八八〇円及び平成一一年二月二五日から毎月二五日限り金四四万七六〇〇円の支払を求めた事案である。

二  前提となる事実

1  被告は、調剤薬局の経営などを目的として平成五年二月三日に設立された株式会社である(争いがない)。

2  原告は平成五年四月二一日被告に入社した。原告は被告において被告の経営に係る「ひまわり薬局」という調剤薬局の出店、管理、医薬品の仕入れ、医療機関との交渉、渉外、被告の営業全般を担当していた(争いがない)。

3  被告代表者は平成一〇年一一月五日午前一〇時ころ被告の社長室において原告に対し解雇通知書(書証略)を交付して原告を右同日をもって懲戒解雇する旨の意思表示をした(以下「本件解雇」という)。解雇通知書には次のような記載がある。

「川口竜一殿

平成一〇年一一月五日

以下の事由により貴殿を平成一〇年一一月五日付けをもって解雇します。

1 経費(交際費、会議費、交通費等)について、請求及び精算に不正があると認められる。よって、懲戒解雇処分とする。会社貸与物品の即時返納及び社宅の明け渡しを命ずる。

東京都渋谷区(以下、略)

株式会社メディカルサポート

代表取締役 伊藤在光」

(解雇通知書の内容については書証略。その余は争いがない)

4  被告の就業規則(以下「本件就業規則」という)には、次のような定めがある(書証略)。

(一) 三九条(懲戒の目的)

会社は、業務の円滑なる遂行および向上を図ることを目的として社員の懲戒を行います。

(二) 四〇条(懲戒の種類)

懲戒はその程度により次の通り区分します。

(1) 譴責 始末書をとり将来を戒めます。

(2) 減給 譴責の上、一回について平均給与日額の半額以内を減額します。

ただし、その減額は一給与計算期間について給与総額の一〇分の一以内とします。

(3) 出勤停止 一回について三日以内の限度において出勤を停止します。

ただし、一給与計算期間において五日以内とします。

(4) 諭旨解雇 懲戒解雇に準ずる者であって、特にその情状を考慮すべきと認められた者。

(5) 懲戒解雇 解雇予告期間を設けず即時解雇し、退職金は支給しません。

ただし、予告手当を支給しない場合は、行政官庁の認定を受けるものとします。

(三) 四一条(譴責)

社員が次の各号の一つに該当するときは、譴責処分とします。

ただし、情状により懲戒を免じ訓戒にとどめることがあります。

(1) 無断欠勤が五日以上におよんだ者。(一号)

(2) 正当な理由がなく、遅刻、早退、私用外出、欠勤がたび重なる者。(二号)

(3) 勤務に関する手続き、届け出を怠りまたは、偽っていた者。(三号)

(4) その他、前各号に準じ勤務に関する事項に違反する行為を行った者。(四号)

(四) 四二条(減給、出勤停止)

社員が次の各号の一つに該当するときは、減給、出勤停止処分とします。

ただし、情状により譴責にとどめることがあります。

(1) 故意または重大な過失により会社に有形無形の損害を与えた者。(一号)

(2) 業務上の怠慢または監督不行届きによって災害その他の事故を発生させ、もしくは正常な業務運営を阻害した者。(二号)

(3) 不正行為を行ない会社の体面を汚した者。(三号)

(4) 火気を粗略に扱ったりその他安全衛生規則に違反し、または保健衛生に関する指示に従わない者、およびその他諸規則、諸通達に違反した者。(四号)

(5) その他前号に準ずる行為のあった者。(五号)

(五) 四三条(懲戒解雇)

社員が次の各号の一つに該当するときは、懲戒解雇処分とします。

ただし、情状により減給・出勤停止または諭旨解雇にとどめることがあります。

(1) 正当な理由がなく無断欠勤が一四日以上におよんだ者および無断連続欠勤が一〇日以上におよんだ者。(一号)

(2) 正当な理由がなく異動を拒みまたは職務上の指示命令に不当に反抗し、越権専断の行為を行い職場の秩序を乱した者。(二号)

(3) 重要な職歴を偽り、採用されたことが判明した者。(三号)

(4) 故意または重大な過失により業務上知り得た秘密を漏らしまたは漏らそうとした者。(四号)

(5) 刑罰その他国法に触れる行為を行い、有罪の判決を受け、解雇が適当と認められた者。(五号)

(6) 前条各号の行為を再度にわたり違反した者または情状が特に重いと認められた者。(六号)

(7) その他各号に準ずる行為があった者。(七号)

5  被告は原告に対し解雇通知書(書証略)により被告が原告に貸与した物品の即時返納と社宅の明渡しを求めるとともに原告の被告への立入りを禁止し、その就労を拒んだ(争いがない)。

6  原告の賃金は毎月一六日から翌月一五日締切りの翌月二五日払いであり、本件解雇直前の平成一〇年一〇月二五日現在の原告の賃金(基本給、家族手当及びその他手当の合計)は四四万七六〇〇円であった。被告は同年一一月二五日には原告に対し賃金として金四四万七六〇〇円を支払ったが、同年一二月二五日には原告に対し賃金(基本給のみ)として金三一万三三二〇円を支払ったのみで、その後は一切賃金を支払わない(原告の賃金の内訳については書証略。平成一〇年一二月二五日に支払われた原告の賃金の内訳については書証略。その余は争いがない)。

7  原告は平成一〇年一一月九日付けで東京地方裁判所に対し原告を債権者、被告を債務者とする地位保全等仮処分命令の申立てを行い(東京地方裁判所平成一〇年(ヨ)第二一二五三号事件。以下「本件仮処分命令申立事件」という)、東京地方裁判所は平成一一年四月一二日被告は原告に対し四四万七六〇〇円及び同年四月から平成一二年二月まで毎月二五日限り四四万七六〇〇円を仮に支払うことなどを決定した(書証略。弁論の全趣旨)。

三  争点

1  本件解雇は無効か。

(一) 被告の主張

(1) 被告の業務が調剤薬局の経営であることから被告の営業担当の社員は医師の接待などに当たることが多く、営業担当の社員が社外で接待費用を立替払いしたときは、交際費使用明細書に接待費用の金額、接待した人の氏名を記載して被告に提出し、被告代表者の決裁を受けて立替払いした接待費用の支払を受けることになっていたところ、原告は、次のとおり、実際には医師を接待した事実はないにもかかわらず、医師を接待したかのような虚偽の事実を記載した交際費使用明細書を被告に提出し、交際費を詐取していた。この原告の行為が本件就業規則四三条二号にいう「越権専断の行為を行い職場の秩序を乱した者」に当たることは明らかである。

ア 原告が被告に提出した平成一〇年一〇月二〇日付け交際費使用明細書(書証略)によれば、原告は同月一五日に被告の取引先であるスズケンの社員である大谷、北澤及び竹田と桜ヶ丘カントリークラブで接待ゴルフをした後、その日の夜に銀座のクラブ「胡蝶花」で右三名を接待したということであったが、原告は実際には木島医師、その妻及び松井医師の三名を接待したと説明していた。ところが、被告の従業員が同月二一日に松井医師に確認したところ、松井医師は同月一五日にゴルフに行ったのは事実だが、その日の夜に銀座のクラブで接待を受けた事実はないと答えた。さらに、債務者代表者が同年一一月一〇日に松井医師に確認したところ、松井医師は「ゴルフの参加者は自分と木島医師、竹田及び原告の四名で、ゴルフの終了後は各自自宅まで送ってもらって解散した」と答えた。

イ 原告が被告に提出した平成一〇年一〇月二六日付け会議費使用明細書(書証略)及び交際費使用明細書(書証略)によれば、原告が同月二〇日に卸業者である日医工の社員である竹内、宮田の二名と打合せをしたということであったが、原告は実際には鈴木医師を接待したと説明していた。ところが、被告代表者が同年一一月一三日に鈴木医師に確認したところ、鈴木医師は同月二〇日に接待を受けた事実はないと答えた。

ウ 原告が被告に提出した平成一〇年一〇月二六日付け交際費使用明細書(書証略)によれば、原告が同月二二日に協和の安藤、大日本の坂田、藤沢の森口を接待したということであったが、原告は実際にはマナベクリニックの院長である真鍋医師と林レディースクリニック院長の林医師を接待したと説明していた。ところが、被告代表者が同年一一月六日に真鍋医師に確認したところ、真鍋医師は同月二二日に接待を受けた事実はない、原告と一緒に飲みに行くことはあるが、数件行ったうち一件くらいの飲食代を原告に負担してもらうだけで、その余は自分で負担しており、自分で払ったときの領収書は被告で使っていいと言って原告に渡したことがあると答えた。

エ 原告が被告に提出した平成一〇年九月二四日付け会議費使用明細書(書証略)及び交際費使用明細書(書証略)によれば、原告は同月一七日に横浜東急ホテルで鈴木医師、被告の取引先であるクラヤの社員である岩田及び吉田、被告の社員で保土ヶ谷店に勤務する田中ら計七名と横浜東急ホテルで飲食した後、その日の夜に赤坂の「リア」で鈴木医師、岩田及び吉田を接待したということであった。ところが、被告が調査したところによると、鈴木医師は同月一七日の夜に赤坂には行っていないこと、田中は同月一七日には休暇を取っていて勤務に就いていなかったこと、クラヤに吉田という社員は在籍していないこと、同社の岩田も一緒に飲食していないことが判明した。この会議費使用明細書(書証略)及び交際費使用明細書(書証略)に係る立替払い金については原告に支払済みである。

オ 原告が被告に提出した平成一〇年九月二九日付け会議費使用明細書(書証略)によれば、原告は同月二四日に大森薬品の後藤と飲食したということであった。ところが、被告が調査したところによると、原告は後藤と飲食していなかったことが判明した。この会議費使用明細書(書証略)に係る立替払い金については原告に支払済みである。

カ 原告が被告に提出した平成一〇年一〇月六日付け会議費使用明細書(書証略)によれば、原告が同月二日に昭和薬品の小林らと飲食したということであり、右同日付け会議費使用明細書(書証略)及び交際費使用明細書(書証略)によれば、原告が同月二日にスズケンの竹田らと飲食したということであった。ところが、被告代表者が竹田に確認したところ、竹田は飲食に参加した事実はないと答えた。また、この飲食の当時には昭和薬品は他社との合併によりアズウェルと商号を変更しており、昭和薬品という会社は存在していなかったし、合併前に昭和薬品に在籍していた小林とこの日に飲食したとして、竹田と一緒に飲食することに何の不都合もなかったのであるから、わざわざ同じ日に別の席を二つも設けることは不自然である。

キ 原告が被告に提出した平成一〇年一〇月一三日付け会議費使用明細書(書証略)及び交際費使用明細書(書証略)によれば、原告が同月五日にミトモ建設の三川、芦川及び青山と飲食したということであった。ところが、被告代表者が確認したところ、三川は原告と飲食したことはないと答え、ミトモ建設には青山という社員は在籍していなかった。

ク 原告が被告に提出した平成一〇年一〇月一三日付け交際費使用明細書(書証略)及び会議費使用明細書(書証略)によれば、原告が同月七日に東京薬品の折原及び西藤と飲食したということであった。ところが、被告代表者が確認したところ、折原も西藤も原告と飲食したことはないと答えた。

ケ 原告が被告に提出した平成一〇年二月二五日付け会議費使用明細書(書証略)によれば、原告が同月一〇日にスズケンの竹田らと水岡寿司丈で飲食したということであった。ところが、被告が竹田らに確認したところ、竹田らは原告と飲食していないと答えた。

コ 原告が被告に提出した平成一〇年三月一八日付け会議費使用明細書(書証略)によれば、原告が同月一二日に片山、飯田及び木村らとボナペティで飲食したということであり、同年六月二六日付け会議費使用明細書(書証略)によれば、原告が同月二五日に片山、飯田及び木村らと松栄寿司で飲食したということであった。ところが、被告が片山、飯田及び木村に確認したところ、片山、飯田及び木村は原告と飲食していないと答えた。

(2) 原告は被告の社員である大藤昇(以下「大藤」という)を通じて平成一〇年一〇月二三日から青森県八戸市に出張させるよう申し入れてきたが、被告はこの申入れを認めず、通常の勤務に就くよう命じた。ところが、原告は被告の命令を無視して同月二三日に出張に出向こうとしたので、被告代表者は原告に対し電話ですぐに帰社するよう命じたが、原告はこれを無視して同月二六日まで青森県八戸市に出張した。この原告の行為は本件就業規則四三条二号にいう「越権専断の行為を行い職場の秩序を乱した者」に当たる。

(二) 原告の主張

(1) 原告が医師を接待したかのような虚偽の事実を記載した交際費使用明細書を被告に提出し、交際費を詐取したことはない。被告の主張に係る原告による詐取について、原告は次のとおり反論する。そして、次の反論のとおり被告の主張に係る原告の各行為(原告が立替払いした飲食又は接待)はいずれも業務に関連するものであり、被告をごまかして私利私欲を図り、自分の遊興のつけを被告に負担させるというものではないから、被告の主張に係る原告の各行為が本件就業規則四三条二号にいう「越権専断の行為を行い職場の秩序を乱した者」に当たらないことは明らかである。

ア 原告が被告に提出した平成一〇年一〇月二〇日付け交際費使用明細書(書証略)によれば、その使途が被告の主張のとおりであり、原告が被告の主張に係る説明をしたが、原告がこの説明のとおり金員を支払っていないことは認める。交際費使用明細書(書証略)は、原告が被告の取締役総務部長である與野清(以下「與野」という)とともにひまわり薬局恵比寿店の管理主任薬剤師である片山勝治(以下「片山」という)を同月二〇日に慰労したときの費用である。原告は、與野から、原告が被告の社員として医師を接待するときには行政機関から医師と調剤薬局との癒着という疑惑をかけられたりする危険を回避するために接待の回数や金額などを勘案してできるだけ医師本人の名前を表面に出さないで得意先の名前などを借りて交際費使用明細書を作成し、被告代表者には実際には医師の接待であることを報告しておくよう指示されていたので、交際費使用明細書(書証略)もこの指示に従って作成したのであるが、実際に慰労した相手を明らかにしなかったのは片山が医師ではなく被告の社員であることをはばかってのことである。交際費使用明細書(書証略)は被告代表者の決裁が得られず、原告が立替払いした分についてはいまだに被告から支払われていないから、被告にはいまだ何の損害も発生していない。

イ 原告が被告に提出した平成一〇年一〇月二六日付け会議費使用明細書(書証略)及び交際費使用明細書(書証略)によれば、その使途が被告の主張のとおりであり、原告が被告の主張に係る説明をしたが、原告がこの説明のとおり金員を支払っていないことは認める。会議費使用明細書(書証略)及び交際費使用明細書(書証略)は、原告が與野及び被告の渉外担当の社員と同月一六日又は一九日ころに業務上の打合せ及び協議を行ったときの費用であり、交際費使用明細書(書証略)は、原告が同月二〇日に片山を慰労した際の二次会の費用である。これらについては與野から被告の経費として起票することの了承があった。会議費使用明細書(書証略)及び交際費使用明細書(書証略)は被告代表者の決裁が得られず、原告が立替払いした分についてはいまだに被告から支払われていないから、被告にはいまだ何の損害も発生していない。

ウ 原告が被告に提出した平成一〇年一〇月二六日付け交際費使用明細書(書証略)によれば、その使途が被告の主張のとおりであり、原告が被告の主張に係る説明をしたが、原告がこの説明のとおり金員を支払っていないことは認める。交際費使用明細書(書証略)は、原告が同月二二日に真鍋医師を接待したときの費用であった。原告は真鍋医師から同人が自分で払ったときの領収書を被告で使っていいと言って原告に渡されたことがあるが、原告はそれを一度も一枚も使っていない。交際費使用明細書(書証略)は被告代表者の決裁が得られず、原告が立替払いした分についてはいまだに被告から支払われていないから、被告にはいまだ何の損害も発生していない。

エ 原告が被告に提出した平成一〇年九月二四日付け会議費使用明細書(書証略)及び交際費使用明細書(書証略)によれば、その使途が被告の主張のとおりであるが、原告がこの記載のとおり金員を支払っていないこと、この会議費使用明細書(書証略)及び交際費使用明細書(書証略)に係る立替払い金については原告に支払済みであることは認める。会議費使用明細書(書証略)は原告が横浜東急ホテルで鈴木医師と謝礼金の打切りについて懇談、協議したときの費用であり、交際費使用明細書(書証略)は原告が鈴木医師と懇談、協議した後にその結果をその日の夜に與野に報告したときの飲食の費用である。

カ 原告が被告に提出した平成一〇年九月二九日付け会議費使用明細書(書証略)によれば、その使途が被告の主張のとおりであるが、原告がこの説明のとおり金員を支払っていないこと、この会議費使用明細書(書証略)に係る立替払い金については原告に支払済みであることは認める。会議費使用明細書(書証略)は原告がひまわり薬局恵比寿店の門口繁勇樹(以下「門口」という)を慰労したときの飲食の費用である。会議費使用明細書(書証略)には被告代表者の承認印が押されている。

キ 原告が被告に提出した平成一〇年一〇月六日付け会議費使用明細書(書証略)、会議費使用明細書(書証略)及び交際費使用明細書(書証略)によれば、その使途が被告の主張のとおりであるが、原告がこの説明のとおり金員を支払っていないことは認める。会議費使用明細書(書証略)及び交際費使用明細書(書証略)は原告が同月二日に柳沼医師を接待したときの飲食の費用であり、会議費使用明細書(書証略)は原告が同月一日にひまわり薬局恵比寿店の薬剤師である桜井と被告の本社の総務部員二名(女性)と飲食したときの費用である。会議費使用明細書(書証略)及び交際費使用明細書(書証略)には被告代表者の承認印が押されている。

ク 原告が被告に提出した平成一〇年一〇月一三日付け会議費使用明細書(書証略)及び交際費使用明細書(書証略)によれば、その使途が被告の主張のとおりであるが、原告がこの説明のとおり金員を支払っていないこと、ミモト建設には青山という社員は在籍していないことは認める。会議費使用明細書(書証略)及び交際費使用明細書(書証略)は原告が谷戸建設の青山を接待したときの飲食の費用である。谷戸建設は被告が調剤薬局を開設するに当たって内装工事を依頼してきた会社であるが、ひまわり薬局恵比寿二号店を開設するに当たりその家主が内装工事についてはビルを建築したミトモ建設に発注するという方針を出したため、谷戸建設を恵比寿二号店の内装工事に使うことができなかったので、谷戸建設を恵比寿二号店の内装工事に使うことができないことについて谷戸建設の青山の了解を有るとともにミトモ建設から出された見積りについて意見を仰ぐ目的で同人と飲食したのである。

ケ 原告が被告に提出した平成一〇年一〇月一三日付け交際費使用明細書(書証略)及び会議費使用明細書(書証略)によれば、その使途が被告の主張のとおりであるが、原告がこの説明のとおり金員を支払っていないことは認める。交際費使用明細書(書証略)及び会議費使用明細書(書証略)は原告が與野及び被告の渉外担当の社員と飲食したときの費用である。原告はこの日に神奈川県川崎市在住の高橋医師を訪ねてかねてから被告の懸案であった処方せんの取扱いに係る謝礼金の打切りの方針を伝えたが、同医師の対応が芳しいものではなかったので、その報告と指導を仰ぐ際に與野に促されるままに飲食をしたものである。

コ 原告が被告に提出した平成一〇年二月二五日付け会議費使用明細書(書証略)によれば、その使途が被告の主張のとおりであることは認めるが、原告がこの記載のとおり金員を支払っていないかどうかについては記憶が定かではない。被告が竹田らに確認した内容に間違いがあるとも思えないので、そうすると、この会議費使用明細書(書証略)は與野との打合せを兼ねた飲食であったかもしれない。

サ 原告が被告に提出した平成一〇年三月一八日付け会議費使用明細書(書証略)及び同年六月二六日付け会議費使用明細書(書証略)によれば、その使途が被告の主張のとおりであることは認めるが、原告がこの記載のとおり金員を支払っていないかどうかについては記憶が定かではない。被告が片山、飯田及び木村に確認した内容は尊重せざるを得ないので、そうすると、この会議費使用明細書(書証略)は與野との打合せを兼ねた飲食であったかもしれない。また、記憶喚起に努めたところによれば、会議費使用明細書(書証略)はひまわり薬局恵比寿店の薬剤師である桜井と飲食したときの費用であると思われる。

(2) 原告は大藤を通じて平成一〇年一〇月二三日から青森県八戸市に出張させるよう申し入れ、被告はこれを了承した後に、被告代表者が出張開始当日の同月二三日に原告に電話を架けてきた。被告代表者の電話での話しぶりは原告が出張するのが不快そうな感じであったが、原告は切符等が手配済みであったので、予定どおり出張に出かけたのであって、これが本件就業規則四三条二号にいう「越権専断の行為を行い職場の秩序を乱した者」に当たらないことは明らかである。

(3) 次のとおり、本件解雇には手続上の瑕疵があるから無効である。

ア 懲戒解雇をするに当たっては被解雇者を聴聞しその弁明と釈明の機会を十分に与えるべきであるところ、本件解雇に当たって原告はそのような機会は与えられていないから、本件解雇は公正な事前手続が履践されていないという点において無効である。

イ 解雇、特に懲戒解雇は被解雇者において重大な生活上の影響を受ける問題であるとともに社会的名誉も毀損するものであるところ、被告では被告代表者の外に常勤の取締役である與野がいるのであるから、この両名の合議によって原告を懲戒処分に処するかどうか決定すべきであるにもかかわらず、被告代表者は與野に相談もせずに本件解雇に及んでいるのであって、本件解雇は慎重な合議の結果に基づいて決定されたものではないという点において無効である。

2  未払賃金の金額について

第三当裁判所の判断

一  争点1(本件解雇は無効か)について

1  次の掲げる争いのない事実、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、証拠(略)のうちのこの認定に反する部分は採用できず、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(一) 被告は平成一〇年八月中旬ころに平成七年二月から平成一〇年一月までの三年間の事業年度について東京国税局資料調査部の立入り調査を受けた。被告はその経営に係るひまわり薬局において取り扱う数が多い処方せんを作成した医師に対して謝礼として支払ってきた費用を経費として処理していたが、東京国税局はこれを否認したため、被告は修正申告を余儀なくされた。そこで、被告代表者はひまわり薬局において取り扱う数が多い処方せんを作成した医師に対する謝礼の支払を打ち切ることを決め、その旨を医師に伝えて医師の了承を得ることは原告が担当することになった(証拠略)。

(二) 被告は(一)の東京国税局の調査の際に東京国税局資料調査部の統括官から経費の申請書や領収書の金額や日付に改ざんの跡が見られるという指摘を受けたので、調査会社に依頼して平成一〇年九月から同年一〇月の初めにかけて平成七年二月から平成一〇年一月までの三年間の事業年度について経費の申請書や領収書などをはじめとする被告の経理関係の資料を見てもらったり被告の社員との面接調査を実施してもらってたりして不正の有無を調査してもらったところ、不正な経費の処理があったことが確認された。被告では営業担当の社員が医師や取引先と飲食しながら打合せをしたり医師や取引先を接待したりする場合には飲食しながらの打合せや接待をすることについて事前に被告の承認を得ることが難しいので、社員がその費用を立替払いし、後日被告に対し会議費又は交際費の名目でその費用の支払を申請し、被告はその申請どおりに支払うこととしていた。被告では接待の費用の立替払い金の支払の決裁は被告代表者が行うものとされていたが、被告の取締役総務部長である與野が被告代表者に代わって決済したものについても立替払い金を支払っていた。しかし、被告代表者は調査会社による調査後は申請内容を確認した上で営業担当の社員が立替払いした費用を支払うことに改めることにした(証拠略)。

(三) 原告は平成一〇年一〇月二〇日付け交際費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)(交際費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)を併せて以下「交際費使用明細書(書証略)等」という)を被告代表者に提出した。交際費使用明細書(書証略)等によれば、原告は同月一五日に銀座のクラブ「胡蝶花」において被告の取引先であるスズケンの社員である大谷、北澤及び武田を接待し、その費用として二〇万三六二〇円を支払ったということであった。被告代表者が原告から交際費使用明細書(書証略)等の提出を受けた際にその場で原告に申請の内容について確認したところ、原告は実際には同月一五日の昼間に松井医師及び木島医師と桜ヶ丘カントリークラブで接待ゴルフをし、その日の夜に銀座のクラブ「胡蝶花」で右両名を接待したと答えた。ところが、被告代表者が同月二一日にひまわり薬局上落合店の管理薬剤師である諸岡を通じて松井医師に確認したところ、松井医師は同月一五日に接待ゴルフをされたことは認めたが、その日の夜に銀座で接待されたことは否定した。そこで、被告代表者は交際費使用明細書(書証略)等に係る費用の支払を認めないことにした。被告代表者が同年一一月一〇日に松井医師に確認したところ、松井医師は「ゴルフの参加者は自分と木島医師、竹田及び原告の四名で、ゴルフの終了後は各自自宅まで送ってもらって解散した」と答えていた。実際には交際費使用明細書(書証略)等に係る費用(二〇万三六二〇円)は原告が同月二〇日の夜に銀座のクラブ「胡蝶花」でひまわり薬局恵比寿店の管理薬剤師である片山と一緒に飲食したときの費用であり、そのことが判明したのは本件仮処分命令申立事件においてであった(証拠略)。

これに対し、原告は被告代表者に交際費使用明細書(書証略)等を提出する際に被告代表者から説明を求められる前に原告の方から進んでこの交際費使用明細書に係る費用が松井医師及び木島医師を接待したときの費用であると説明したかのように主張し、その陳述書(書証略)及び本人尋問における供述中にはこれに沿う部分がある。

しかし、被告では営業担当の社員が医師や取引先を接待した場合の費用については社員がこれを立替払いし、後日被告に対し会議費又は交際費の名目でその費用の支払を申請すれば、被告はその申請どおりに支払うこととしていたのであり(前記(二))、被告代表者が調査会社による平成一〇年九月から同年一〇月にかけての調査後は申請内容を確認した上で営業担当の社員が立替払いした費用を支払うことに改めることにしたことを営業担当の社員に周知徹底していたことはうかがわれないのであって、そうであるとすると、原告はこれまでどおり申請しさえすれば申請どおりに支払ってもらえると思っていたものと考えられ、そうであるとすると、原告は被告代表者に交際費使用明細書(書証略)等を提出する際に被告代表者から説明を求められる前に原告の方から進んでこの交際費使用明細書に係る費用が松井医師及び木島医師を接待したときの費用であると説明したとは考え難いというべきである。

また、原告は、営業担当の社員が医師を接待したことが経理書類上明らかになると、行政機関から医師との癒着という疑惑を抱かれる危険があることから、社会的儀礼の範囲を超える金額の接待については医師の名前を出さないで他人の氏名を借用した交際費使用明細書等を作成していたという趣旨の主張をしており、証人與野の証言並びに原告の陳述書(書証略)及び本人尋問における供述中にはこれに沿う部分があるが、証拠(略)によれば、被告代表者、與野及び大藤が平成一〇年一一月七日に日本料理屋「慶屋」において河原木副院長を接待したときの費用は四人分で一二万三七三八円であることが認められ、この接待費用の一人当たりの金額からすれば、この接待費用が金額的に少ないとは決していえないにもかかわらず、接待された医師の名前が交際費使用明細書中に挙げられていること、原告が医師の名前を出すことができないとして他人の名前を借用した交際費使用明細書(書証略)等に係る費用は三人分で合計二〇万三六二〇円であり(前記(三))、そのほかに原告が医師の名前を出すことができないとして他人の名前を借用した会議費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)(会議費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)を併せて以下「会議費使用明細書(書証略)等」という)並びに交際費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)(交際費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)を併せて以下「交際費使用明細書(書証略)等」という)に係る費用は三人分で一一万四二〇〇円であり(後記(四))、これらの費用の一人当たりの金額からすれば、これらの費用も金額的に少ないとは決していえないが、これらの費用は実際には医師を接待した費用ではなく、原告が被告の取締役である與野や被告の他の社員との飲食に要した費用であったこと(前記(三)、後記(四))、被告代表者はその陳述書(書証略)及び代表者尋問において社会的儀礼の範囲を超える金額の接待について医師の名前を出さないで他人の氏名を借用した交際費使用明細書等を作成するよう指示したことはないと供述していること、以上の点を総合すれば、証人與野の証言並びに原告の陳述書及び本人尋問における供述だけでは、被告においては社会的儀礼の範囲を超える金額の接待については医師の名前を出さないで他人の氏名を借用した交際費使用明細書等を作成していたことを認めるには足りないというべきである。

以上によれば、被告代表者に交際費使用明細書(書証略)等を提出する際に被告代表者から説明を求められる前に原告の方から進んでこの交際費使用明細書(書証略)等に係る費用が松井医師及び木島医師を接待したときの費用であると説明したという原告の供述は採用できない。

(四) 原告は平成一〇年一〇月二六日付け会議費使用明細書(書証略)等、交際費使用明細書(書証略)等及び交際費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)(交際費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)を併せて以下「交際費使用明細書(書証略)等」という)を被告に提出したが、被告代表者が不在であったため、原告は会議費使用明細書(書証略)等、交際費使用明細書(書証略)等及び交際費使用明細書(書証略)等を直接被告代表者に渡すことはできなかった。会議費使用明細書(書証略)等、交際費使用明細書(書証略)等及び交際費使用明細書(書証略)等によれば、原告は同月二〇日に赤坂の「南大門」及び「リア」並びに六本木の「ノクターン」において卸業者である日医工の社員である竹内、宮田の二名と打合せをし、その費用として「南大門」で九二〇〇円、「リア」で一〇万五〇〇〇円、「ノクターン」で二万五〇〇〇円を支払ったということであった。被告代表者は原告から提出された会議費使用明細書(書証略)等、交際費使用明細書(書証略)等及び交際費使用明細書(書証略)等の申請の内容について原告に確認するため、原告に会議費使用明細書(書証略)等、交際費使用明細書(書証略)等及び交際費使用明細書(書証略)等を返戻した。返戻された会議費使用明細書(書証略)等、交際費使用明細書(書証略)等及び交際費使用明細書(書証略)等を受け取った原告は被告代表者に申請の内容を説明しようとしたが、被告代表者が不在であったため、この会議費使用明細書(書証略)等、交際費使用明細書(書証略)等及び交際費使用明細書(書証略)等に係る接待が鈴木医師の接待であることを明らかにする趣旨で交際費使用明細書(書証略)及び交際費使用明細書(書証略)にそれぞれ「鈴木cl」と書いた付せんを貼って再び会議費使用明細書(書証略)等、交際費使用明細書(書証略)等及び交際費使用明細書(書証略)等を被告代表者に提出した。しかし、被告代表者は会議費使用明細書(書証略)、交際費使用明細書(書証略)等及び交際費使用明細書(書証略)等に係る費用の支払を認めないことにした。被告代表者が同年一一月一三日に鈴木医師に確認したところ、鈴木医師は同月二〇日に接待を受けた事実はないと答えた。実際には会議費使用明細書(書証略)等に係る費用(九二〇〇円)及び交際費使用明細書(書証略)等に係る費用(一〇万五〇〇〇円)は原告が同月一六日又は一九日に南大門やリアで與野及び渉外担当の社員と一緒に飲食したときの費用であり、交際費使用明細書(書証略)等に係る費用(二万五〇〇〇円)は原告が同月二〇日にノクターンでその日に行われた二次会(その一次会が前記(三)の片山との飲食である)として片山と一緒に飲食したときの費用であり、そのことが判明したのは本件仮処分命令申立事件においてであった(証拠略)。

これに対し、原告はその本人尋問において交際費使用明細書(書証略)及び交際費使用明細書(書証略)を被告に最初に提出したときから付せんを貼って提出したと供述する。

しかし、前記(三)で認定、説示したことからすれば、原告は被告代表者に会議費使用明細書(書証略)等、交際費使用明細書(書証略)等及び交際費使用明細書(書証略)等を提出する際にも被告代表者から説明を求められる前に原告の方から進んでこの会議費使用明細書(書証略)等、交際費使用明細書(書証略)等及び交際費使用明細書(書証略)等に係る費用が鈴木医師を接待したときの費用であると説明したとは考え難いというべきである(なお、原告が交際費使用明細書(書証略)等を被告代表者に提出したときには被告代表者から提出をしたその場で申請の内容について質問されたにすぎない(前記(三))から、原告が交際費使用明細書(書証略)等を被告代表者に提出したときにその場で被告代表者から申請の内容について質問されたことによって、被告代表者に会議費使用明細書(書証略)、交際費使用明細書(書証略)等及び交際費使用明細書(書証略)等を提出する際に被告代表者が不在であることを知って先回りして付せんを貼っておいたということも、そもそも原告がそのような主張をしていないことにかんがみれば、考え難いというべきである)。

また、被告においては社会的儀礼の範囲を超える金額の接待については医師の名前を出さないで他人の氏名を借用した交際費使用明細書等を作成していたことを認めることができないことは、前記(三)で認定、説示のとおりである。

以上によれば、交際費使用明細書(書証略)及び交際費使用明細書(書証略)を被告に最初に提出したときから付せんを貼って提出したという原告の供述は採用できない。

そして、このことに、原告はその本人尋問において会議費使用明細書(書証略)等、交際費使用明細書(書証略)等及び交際費使用明細書(書証略)等を被告に提出したときに被告代表者は不在であったと供述しており、被告代表者もその代表者尋問においてこれを明確に否定する趣旨の供述はしていないこと、被告代表者はその代表者尋問において会議費使用明細書(書証略)等、交際費使用明細書(書証略)等及び交際費使用明細書(書証略)等をいったん原告に返戻したと供述しており、原告もその本人尋問においてこれを明確に否定する供述はしていないこと、証拠(略)によれば、交際費使用明細書(書証略)及び交際費使用明細書(書証略)にそれぞれ貼られた付せんに書かれた文字は原告が書いたものであると認められること、原告が被告代表者に会議費使用明細書(書証略)等、交際費使用明細書(書証略)等及び交際費使用明細書(書証略)等に係る申請の内容について直接説明する機会があったとすれば、原告が交際費使用明細書(書証略)及び交際費使用明細書(書証略)に付せんを貼る必要はなかったものと考えられること、以上の点を総合すれば、前記(四)で認定した事実を認めることができる。

(五) 原告は平成一〇年一〇月二六日付け交際費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)(交際費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)を併せて以下「交際費使用明細書(書証略)等」という)を被告に提出したが、被告代表者が不在であったため、原告は交際費使用明細書(書証略)等を直接被告代表者に渡すことはできなかった。交際費使用明細書(書証略)等によれば、原告は同月二二日に「胡蝶花」において協和の安藤、大日本の坂田、藤沢の森口を接待し、その費用として一九万二八〇〇円を支払ったということであった。被告代表者は原告から提出された交際費使用明細書(書証略)等の申請の内容について原告に確認するため、原告に交際費使用明細書(書証略)等を返戻した。返戻された交際費使用明細書(書証略)等を受け取った原告は被告代表者に申請の内容を説明しようとしたが、被告代表者が不在であったため、この交際費使用明細書(書証略)等に係る接待がマナベクリニックの院長である真鍋医師と林レディースクリニック院長の林医師の接待であることを明らかにする趣旨で交際費使用明細書(書証略)に「マナベDr林Dr」と書いた付せんを貼って再び交際費使用明細書(書証略)等を被告代表者に提出した。しかし、被告代表者は交際費使用明細書(書証略)等に係る費用の支払を認めないことにした。被告代表者が同年一一月六日に真鍋医師に確認したところ、真鍋医師は、原告と一緒に飲みに行くことはあるが、数件行ったうち一件くらいの飲食代を原告に負担してもらうだけで、その余は自分で負担しており、自分で払ったときの領収書は被告で使っていいと言って原告に渡したことがあると答えた。実際には交際費使用明細書(書証略)等に係る費用(一九万二八〇〇円)は原告が同月二一、二日に「胡蝶花」で真鍋医師及びアズウェルの川崎と一緒に飲食していたときの費用であり、そのことが判明したのは本件仮処分命令申立事件においてであった(証拠略)。

これに対し、

(1) 被告はその陳述書(書証略)及び代表者尋問において被告が確認したところでは真鍋医師が同月二二日に「胡蝶花」で原告と飲食したことは否定していたと供述しているが、証拠(略)に照らし採用できない。

(2) 原告はその本人尋問において交際費使用明細書(書証略)を被告に最初に提出したときから付せんを貼って提出したと供述する。

しかし、前記(三)で認定、説示したことからすれば、原告が被告代表者に交際費使用明細書(書証略)等を提出する際に被告代表者から説明を求められる前に原告の方から進んでこの交際費使用明細書(書証略)等に係る費用が真鍋医師及び林医師を接待したときの費用であると説明したとは考え難いというべきである。

また、被告においては社会的儀礼の範囲を超える金額の接待については医師の名前を出さないで他人の氏名を借用した交際費使用明細書等を作成していたことを認めることができないことは、前記(三)で認定、説示のとおりである。

以上によれば、交際費使用明細書(書証略)を被告に最初に提出したときから付せんを貼って提出したという原告の供述は採用できない。

そして、このことに、交際費使用明細書(書証略)の日付が会議費使用明細書(書証略)、交際費使用明細書(書証略)及び交際費使用明細書(書証略)の各日付と同じであることからすれば、交際費使用明細書(書証略)等は、会議費使用明細書(書証略)等、交際費使用明細書(書証略)等及び交際費使用明細書(書証略)等と一緒に被告に提出されたものと考えられ、会議費使用明細書(書証略)等、交際費使用明細書(書証略)等及び交際費使用明細書(書証略)等と一緒に被告代表者から返戻されたものと考えられ、会議費使用明細書(書証略)等、交際費使用明細書(書証略)等及び交際費使用明細書(書証略)等と一緒に再提出されたものと考えられること及び前記(四)で認定した事実を併せ考えれば、前記(五)で認定した事実を認めることができる。

(六) 原告は平成一〇年九月二四日付け会議費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)(会議費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)を併せて以下「会議費使用明細書(書証略)等」という)並びに交際費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)(交際費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)を併せて以下「交際費使用明細書(書証略)等」という)を被告に提出した。会議費使用明細書(書証略)等によれば、原告は同月一七日に横浜東急ホテルにおいて鈴木医師、被告の取引先であるクラヤの社員である岩田及び吉田、被告の社員で保土ヶ谷店に勤務する田中ら計七名と飲食し、その費用として三万〇四六二円を支払ったということであり、交際費使用明細書(書証略)等によれば、原告は右同日に赤坂の「リア」において鈴木医師、岩田、吉田、田中ら計七名を接待し、その費用として五万二五〇〇円を支払ったということであった。被告は会議費使用明細書(書証略)等及び交際費使用明細書(書証略)等に係る立替払い金を原告に支払った。しかし、その後被告が調査したところによると、鈴木医師は同月一七日の夜に赤坂には行っていないこと、田中は同月一七日には休暇を取っていて勤務に就いていなかったこと、クラヤに吉田という社員は在籍していないこと、同社の岩田も一緒に飲食していないことが判明した。実際には会議費使用明細書(書証略)等に係る費用(三万〇四六二円)は原告が横浜東急ホテルで鈴木医師と謝礼金の打切りについて懇談、協議したときの飲食の費用であり、交際費使用明細書(書証略)等に係る費用(五万二五〇〇円)は原告が鈴木医師と懇談、協議した後にその結果をその日の夜に與野に報告したときの飲食の費用であり、そのことが判明したのは本件仮処分命令申立事件においてであった(証拠略)。

(七) 原告は平成一〇年九月二九日付け会議費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)(会議費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)を併せて以下「会議費使用明細書(書証略)等」という)並びに会議費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)(会議費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)を併せて以下「会議費使用明細書(書証略)等」という)を被告に提出した。会議費使用明細書(書証略)等によれば、原告は同月二四日に恵比寿西の「とんからりん」において日医工の竹内及び大森薬品の後藤と飲食し、その費用として一万八四〇〇円を支払ったということであり、会議費使用明細書(書証略)等によれば、原告は右同日に恵比寿南のスナック「モア」において後藤と飲食し、その費用として九九八〇円を支払ったということであった。被告は会議費使用明細書(書証略)等及び会議費使用明細書(書証略)等に係る立替払い金を原告に支払った。しかし、その後被告が調査したところによると、原告は後藤と飲食していなかったことが判明した。実際には会議費使用明細書(書証略)等に係る費用(一万八四〇〇円)及び会議費使用明細書(書証略)等に係る費用(九九八〇円)は原告が同月二四日にひまわり薬局恵比寿店の門口と一緒に飲食したときの費用であり、そのことが判明したのは本件仮処分命令申立事件においてであった(証拠略)。

(八) 原告は平成一〇年一〇月六日付け会議費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)(会議費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)を併せて以下「会議費使用明細書(書証略)等」という)、会議費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)(会議費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)を併せて以下「会議費使用明細書(書証略)等」という)並びに交際費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)(交際費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)を併せて以下「交際費使用明細書(書証略)等」という)を被告に提出した。会議費使用明細書(書証略)等によれば、原告は同月二日に恵比寿西の「Rafu」において昭和薬品の小林、川崎及び中村と飲食し、その費用として六八五〇円を支払ったということであり、会議費使用明細書(書証略)等及び交際費使用明細書(書証略)等によれば、原告は右同日に恵比寿南のビストロ「ルプュイドール」においてスズケンの竹田、江西及び瀬古と飲食し、赤坂のクラブ「ビスⅡ」において竹田らを接待し、その費用としてそれぞれ二万六一一〇円、一〇万五〇〇〇円を支払ったということであった。被告は会議費使用明細書(書証略)等、会議費使用明細書(書証略)等及び交際費使用明細書(書証略)等に係る立替払い金を原告に支払った。しかし、その後被告代表者が竹田に確認したところ、竹田は飲食に参加した事実はないと答えた。実際には会議費使用明細書(書証略)等に係る費用(六八五〇円)及び交際費使用明細書(書証略)等に係る費用(一〇万五〇〇〇円)は原告が同月二日に柳沼医師を接待したときの費用であり、会議費使用明細書(書証略)等に係る費用(二万六一一〇円)は原告が同月一日にひまわり薬局恵比寿店の薬剤師である桜井と被告の本社の総務部員二名(女性)と飲食したときの費用であり、そのことが判明したのは本件仮処分命令申立事件においてであった(証拠略)。

(九) 原告は平成一〇年一〇月一三日付け会議費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)(会議費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)を併せて以下「会議費使用明細書(書証略)等」という)並びに交際費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)(交際費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)を併せて以下「交際費使用明細書(書証略)等」という)を被告に提出した。会議費使用明細書(書証略)等によれば、原告は同月五日に恵比寿西の「とんからりん」においてミトモ建設の三川、芦川及び青山と飲食し、その費用として一万七九〇〇円を支払ったということであり、交際費使用明細書(書証略)等によれば、原告は右同日に赤坂「リア」において三川らを接待し、その費用として八万四〇〇〇円を支払ったということであった。被告は会議費使用明細書(書証略)等及び交際費使用明細書(書証略)等に係わる立替払い金を原告に支払った。しかし、その後被告代表者が確認したところ、三川は原告と飲食したことはないと答え、ミトモ建設には青山という社員は在籍していなかったことが判明した。実際には会議費使用明細書(書証略)等に係る費用(一万七九〇〇円)及び交際費使用明細書(書証略)等に係る費用(八万四〇〇〇円)は原告が同月五日に谷戸建設の青山を接待したときの費用であり、そのことが判明したのは本件仮処分命令申立事件においてであった(証拠略)。

(一〇) 原告は平成一〇年一〇月一三日付け交際費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)(交際費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)を併せて以下「交際費使用明細書(書証略)等」という)並びに会議費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)(会議費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)を併せて以下「会議費使用明細書(書証略)等」という)を被告に提出した。交際費使用明細書(書証略)等によれば、原告は同月七日に赤坂の「リア」において東京薬品の折原及び西藤と飲食し、その費用として七万五〇〇〇円を支払ったということであり、会議費使用明細書(書証略)等によれば、原告は右同日に恵比寿西の「ボナペティ」において東京薬品の折原及び西藤並びに片山と飲食し、その費用として二万二六〇〇円を支払ったということであった。被告は交際費使用明細書(書証略)等及び会議費使用明細書(書証略)等に係る立替払い金を原告に支払った。しかし、その後被告代表者が確認したところ、折原も西藤も原告と飲食したことはないと答えた。実際には交際費使用明細書(書証略)等に係る費用(七万五〇〇〇円)及び会議費使用明細書(書証略)等に係る費用(二万二六〇〇円)は原告が同月七日に與野及び被告の渉外担当の社員と飲食したときの費用であり、このことが判明したのは本件仮処分命令申立事件においてであった(証拠略)。

(一一) 原告は平成一〇年二月二五日付け会議費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)(会議費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)を併せて以下「会議費使用明細書(書証略)等」という)を被告に提出した。会議費使用明細書(書証略)等によれば、原告は同月一〇日に恵比寿西の「水岡寿司丈」においてスズケンの竹田及び江西と飲食し、その費用として一万四六〇〇円を支払ったということであった。被告は会議費使用明細書(書証略)等に係る立替払い金を原告に支払った。しかし、被告が平成一一年五月に竹田らに確認したところ、竹田らは原告と飲食していないと答えた。実際には会議費使用明細書(書証略)等に係る費用(一万四六〇〇円)は原告が同月一〇日に與野と飲食したときの費用であり、そのことが判明したのは本件訴訟においてであった(証拠略)。

(一二) 原告は平成一〇年三月一八日付け会議費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)(会議費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)を併せて以下「会議費使用明細書(書証略)等」という)並びに同年六月二六日付け会議費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)(会議費使用明細書(書証略)及び領収書(書証略)を併せて以下「会議費使用明細書(書証略)等」という)を被告に提出した。会議費使用明細書(書証略)等によれば、原告は同年三月一二日に恵比寿西の「ボナペティ」において片山、飯田及び木村らと飲食し、その費用として二万六五〇〇円を支払ったということであり、会議費使用明細書(書証略)等によれば、原告は同年六月二五日に恵比寿南の「松栄寿司」において片山、飯田及び木村らと飲食し、その費用として二万三七〇〇円を支払ったということであった。被告は会議費使用明細書(書証略)等及び会議費使用明細書(書証略)等に係る立替払い金を原告に支払った。しかし、被告が平成一一年五月に片山、飯田及び木村に確認したところ、片山、飯田及び木村は原告と飲食していないと答えた。実際には会議費使用明細書(書証略)等に係る費用(二万六五〇〇円)は原告が平成一〇年三月一二日に與野と飲食したときの費用であり、会議費使用明細書(書証略)等に係る費用(二万三七〇〇円)は原告が同年六月二五日にひまわり薬局恵比寿店の薬剤師である桜井と飲食したときの費用であり、そのことが判明したのは本件訴訟においてであった(証拠略)。

(一三) 被告代表者は平成一〇年一一月二日原告に対し、原告から提出された会議費使用明細書及び交際費使用明細書について飲食した相手方として記載された者と実際に飲食した相手方とが違っており、これは横領に当たることを指摘した上で、会議費使用明細書及び交際費使用明細書について飲食した相手方として記載された者と実際に飲食した相手方とが違っていないことが立証できるのなら立証するよう求めたが、原告はその場においてもその後も何の弁解もしなかった。被告代表者は本件解雇の際には原告から提出された会議費使用明細書及び交際費使用明細書について飲食した相手方として記載された者と実際に飲食した相手方とが違っているものがあることを把握していたが、その件数が何件であったかについては明らかにしていないし、被告代表者は原告に解雇通知書(書証略)を交付した際に経費の不正請求及び不正精算を具体的に一つ一つ挙げることはしていない(人証略)。

(一四) 原告は、平成一〇年一〇月に鈴木医師のもとを訪ねたときに、鈴木医師に対し、平成一一年になれば被告代表者が交替するかのような話をしたことがあった。被告代表者は本来原告の直属の上司は被告代表者であるにもかかわらず、原告は被告代表者の指示、判断を仰ごうとはせず、専ら與野の指示、判断を仰いで行動しており、與野と原告は示し合わせていると考えていた。そのため被告代表者が本件解雇を決断する際に本件解雇の件を與野には相談していない(人証略)。

2  前記第三の一1で認定した事実を前提に、本件解雇の効力について判断する。

(一) 本件解雇の理由について

(1) 懲戒処分は、企業秩序に違反した行為に対する一種の制裁罰であり、その処分の対象は、企業秩序に違反する特定の非違行為であって、懲戒解雇はあくまでも特定の非違行為を対象とする制裁罰として使用者が有する懲戒権の発動により行われるものであるから、対象とされた非違行為が何であるかを確定する必要がある。

そして、懲戒事由に該当する複数の非違行為が存在する場合でも、使用者は、必ずその全部を対象として単一の懲戒処分をする必要はなく、その一部だけを対象として一個の懲戒処分に付することもできるし、幾つかに分けて複数の処分に付することもできると解される。

したがって、懲戒処分の対象となる非違行為は、使用者が処分時に処分の対象とする意思を有していたものに限られるわけであり、一般的には、処分当時使用者が認識していなかった非違行為を、使用者が懲戒処分の対象としていたとはいえないのであって、そうすると、処分時に客観的には存在していたが、処分当時使用者が認識していなかった非違行為については、原則として懲戒処分の対象とされていなかったといわざるを得ず、懲戒処分の対象とされなかった非違行為は使用者が処分当時に処分の対象とする意思を有していなかったわけであるから、懲戒処分の対象とされなかった非違行為をもって処分の適法性を根拠づけることはできないと解され、したがって、懲戒処分の適法性を根拠づける目的で処分当時に使用者が処分の対象としていなかった非違行為を訴訟において追加主張することは原則として許されないと解される。

(2) 本件において、被告代表者が平成一〇年一一月五日に原告に交付した解雇通知書(書証略)には「経費(交際費、会議費、交通費等)について、請求及び精算に不正があると認められる。よって、懲戒解雇処分とする。」と書かれていたこと(前記第二の二3)、被告代表者はその代表者尋問において八戸への無断出張の件(前記第二の三1(一)(2))は本件解雇の理由ではないことを明言していること、被告では営業担当の社員が医師や取引先と飲食しながら打合せをしたり医師や取引先を接待したりする場合には飲食しながらの打合せや接待をすることについて事前に被告の承認を得ることが難しいので、社員がその費用を立替払いし、後日被告に対し会議費又は交際費の名目でその費用の支払を申請し、被告はその申請どおりに支払うこととしていたこと(前記第三の一1(二))、被告代表者は平成一〇年一一月二日原告に対し、原告から提出された会議費使用明細書及び交際費使用明細書について飲食した相手方として記載された者と実際に飲食した相手方とが違っており、これは横領に当たることを指摘し、会議費使用明細書及び交際費使用明細書について飲食した相手方として記載された者と実際に飲食した相手方とが違っていないことが立証できるのなら立証するよう求めた(前記第三の一1(一三))上で、同月五日に本件解雇に及んでいること(前記第二の二3)、以上によれば、本件解雇の理由は八戸への無断出張の件ではなく、原告が飲食をしながらの打合せや接待のために支払ったわけではないのに飲食をしながらの打合せや接待のために支払ったと称して不正な経費の請求をし、不正な経費の精算を受けたことであると認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

そして、被告の主張に係る経費の不正請求及び不正精算は第三の一1(一)(1)アないしコのとおりであるが、このうち平成一〇年一〇月二〇日付け交際費使用明細書(書証略)等に係る費用、同月二六日付け会議費使用明細書(書証略)等に係る費用、交際費使用明細書(書証略)等に係る費用、交際費使用明細書(書証略)等に係る費用、同年九月二四日付け交際費使用明細書(書証略)等に係る費用、同月二九日付け会議費使用明細書(書証略)等に係る費用、会議費使用明細書(書証略)等に係る費用、平成一〇年一〇月六日付け会議費使用明細書(書証略)等に係る費用、同年一〇月一三日付け交際費使用明細書(書証略)等に係る費用、会議費使用明細書(書証略)等に係る費用、同年二月二五日付け会議費使用明細書(書証略)等に係る費用、同年三月一八日付け会議費使用明細書(書証略)等に係る費用及び会議費使用明細書(書証略)等に係る費用は、いずれも被告の取締役である與野又は被告の他の社員との飲食に要した費用というのである(前記第三の一1)が、被告において会議費又は交際費の名目による支出が許されているのは営業担当の社員が医師や取引先と飲食しながら打合せをしたり医師や取引先を接待したりする場合に飲食や接待に要した費用であり(前記第三の一1(二))、原告が被告の取締役である與野又は被告の他の社員との飲食に要した費用が被告において会議費又は交際費の名目による支出が許された費用に当たらないことは明らかであるから、これらの費用については原告が経費を不正に請求し、不正に経費の精算を受けていたというべきである。

これに対し、原告は被告の取締役である與野又は被告の他の社員との飲食に要した費用について会議費又は交際費の名目で被告にその支払を請求することは與野から承諾を得ていたと主張し、(人証略)並びに原告の陳述書(書証略)及び本人尋問における供述中には右の主張に沿う部分があるが、與野は被告の取締役であっても、代表取締役ではないから、仮に與野が原告に対し與野又は被告の他の社員との飲食に要した費用について会議費又は交際費の名目で被告にその支払を請求することを承諾していたとしても、右の承諾をもって原告が経費を不正に請求し、不正に経費の精算を受けたことには当たらないということはできない。

(3) ところで、被告代表者は本件解雇の際に原告から提出された会議費使用明細書及び交際費使用明細書について飲食した相手方として記載された者と実際に飲食した相手方とが違っているものがあることを把握していたが、その件数が何件であったかについては明らかにしていない(前記第三の一1(一三))のであり、被告代表者が本件解雇の際に原告による経費の請求が不正請求であることを把握していたのが確実であるといえるのは平成一〇年一〇月二〇日付け交際費使用明細書(書証略)等に係る費用(前記第三の一1(三))の件だけであり、そうすると、本件解雇の理由としての経費の不正請求及び不正精算とは平成一〇年一〇月二〇日付け交際費使用明細書(書証略)等に係る費用(前記第三の一1(三))の件だけであるということになるように考えられないでもない。

しかし、被告代表者は平成一〇年一〇月二〇日付け交際費使用明細書(書証略)等に係る費用(前記第三の一1(三))の件については支払を認めないことにした(前記第三の一1(三))のであるから、仮に被告代表者が平成一〇年一〇月二〇日付け交際費使用明細書(書証略)等に係る費用(前記第三の一1(三))の件のみを本件解雇の理由としたとすると、原告による不正請求のみを本件解雇の理由としたことになってしまうこと、しかし、被告代表者が平成一〇年一一月五日に原告に交付した解雇通知書(書証略)には「経費(交際費、会議費、交通費等)について、請求及び精算に不正があると認められる。よって、懲戒解雇処分とする。」と書かれており(前記第二の二3)、被告代表者が原告による不正請求のみを本件解雇の理由としていたことは考え難いというべきであること、被告代表者は原告に解雇通知書(書証略)を交付した際に経費の不正請求及び不正精算を具体的に一つ一つ挙げることはしておらず(前記第三の一1(一三))、したがって、被告代表者が本件解雇の理由を本件解雇の時点で判明していた原告による経費の不正請求及び不正精算に限るものとしていたということは必ずしもできないこと、被告は平成一〇年八月中旬ころに平成七年二月から平成一〇年一月までの三年間の事業年度について東京国税局資料調査部の立入り調査を受けた際に経費の申請書や領収書の金額や日付に改ざんの跡が見られるという指摘を受け、東京国税局の立入り調査後に調査会社に経費の処理における不正の有無を調査してもらい、その結果不正な経費の処理があったことが確認された(前記第三の一1(一)、(二))が、この調査結果に基づいて原告をはじめとする被告の社員が不正な経費の処理の責任を問われたことはうかがわれないのであり、被告の主張に係る経費の不正請求及び不正精算はいずれも調査会社による調査の対象とはならなかった平成一〇年二月以降の分に限られていることからすると、被告代表者が問題としている原告による経費の不正請求及び不正精算とは平成一〇年二月以降の分であると考えるのが自然であること、以上の点を総合すれば、被告は本件解雇までに原告から提出された会議費使用明細書及び交際費使用明細書について飲食した相手方として記載された者と実際に飲食した相手方とが違っているものが何件かあることを把握していたことから、原告から提出された会議費使用明細書及び交際費使用明細書について飲食した相手方として記載された者と実際に飲食した相手方とが違っているものとして既に把握している分の外にも、同様の経費の処理がされているものがあり得るものと考え、また、さらに調査を進めれば、他にも原告から提出された会議費使用明細書及び交際費使用明細書について飲食した相手方として記載された者と実際に飲食した相手方とが違っているものが出てくるものと考えた上で、平成一〇年一一月五日の時点において、調査会社による調査の対象とはならなかった平成一〇年二月以降の原告による経費の不正請求及び不正精算を既に判明している分はもちろんのこと、いまだ判明していない分も含めて本件解雇の対象としたものと解される。

そうであるとすれば、被告が本件解雇の当時には個別具体的に認識していなかった非違行為(原告による経費の不正請求及び不正精算)でも訴訟において追加主張することは許されるものというべきである。

(4) 以上によれば、本件解雇は、交際費使用明細書(書証略)等に係る費用(二〇万三六二〇円)の件、会議費使用明細書(書証略)等に係る費用(九二〇〇円)の件、交際費使用明細書(書証略)等に係る費用(一〇万五〇〇〇円)の件、交際費使用明細書(書証略)等に係る費用(二万五〇〇〇円)の件、交際費使用明細書(書証略)等に係る費用(五万二五〇〇円)の件、会議費使用明細書(書証略)等に係る費用(一万八四〇〇円)の件、会議費使用明細書(書証略)等に係る費用(九九八〇円)の件、会議費使用明細書(書証略)等に係る費用(二万六一一〇円)の件、交際費使用明細書(書証略)等に係る費用(七万五〇〇〇円)の件、会議費使用明細書(書証略)等に係る費用(二万二六〇〇円)の件、会議費使用明細書(書証略)等に係る費用(一万四六〇〇円)の件、会議費使用明細書(書証略)等に係る費用(二万六五〇〇円)の件及び会議費使用明細書(書証略)等に係る費用(二万三七〇〇円)の件がいずれも経費の不正請求又は不正精算であることを理由にされたものというべきであり、このような経費の不正請求及び不正精算は企業秩序維持の観点からは被告としては到底容認することができないものと考えられる。

そして、被告は、これらの費用のうち、交際費使用明細書(書証略)等に係る費用、会議費使用明細書(書証略)等に係る費用、交際費使用明細書(書証略)等に係る費用及び交際費使用明細書(書証略)等に係る費用の合計三四万二八二〇円については原告に支払ってはいないが、その余の合計二六万九三九〇円については原告に支払済みであって、支払済みの金額が少ないとは決していえない金額であり、原告が経費の不正請求をした回数及び不正精算をした回数も少ないとは決していえない回数であること、被告代表者は本件解雇に先立つ平成一〇年一一月二日に原告に対し、原告から提出された会議費使用明細書及び交際費使用明細書について飲食した相手方として記載された者と実際に飲食した相手方とが違っており、これは横領に当たることを指摘した上で、会議費使用明細書及び交際費使用明細書について飲食した相手方として記載された者と実際に飲食した相手方とが違っていないことが立証できるのなら立証するよう求めたが、原告はその場においてもその後も何の弁解もしなかったこと(前記第三の一1(一三))、以上の点を総合すれば、被告が企業経営上の観点からもはや原告を雇用し続けることはできないと考えたとしても、それは無理からぬことというべきであって、被告が原告を解雇したことには客観的に合理的な理由があるというべきである。

(5) これに対し、原告は、その本人尋問において、與野と対立している被告代表者は原告が與野と示し合わせていると考えたことから、原告を被告から排除する目的で本件解雇に及んだという趣旨の供述をしている。

被告代表者が、本来原告の直属の上司は被告代表者であるにもかかわらず、原告は被告代表者の指示、判断を仰ごうとはせず、専ら與野の指示、判断を仰いで行動しており、與野と原告は示し合わせていると考えていたこと(前記第三の一1(一四))、原告は、平成一〇年一〇月に鈴木医師のもとを訪ねたときに、鈴木医師に対し、平成一一年になれば被告代表者が交代するかのような話をしたことがあったこと(前記第三の一1(一四))からすれば、被告代表者は本件解雇当時原告が與野の手足となって被告代表者を被告から排除することを企てていると考えて、その企てが実現する前に與野の手足となっている原告を被告から排除する目的で本件解雇に及んだという可能性も考えられないではないが、そうであるからといって、本件解雇の理由が原告による経費の不正請求及び不正精算であることを左右することができないことは明らかであり、被告代表者が本件解雇当時右に述べたような意図で本件解雇に及んだからといって、そのことによって直ちに本件解雇の理由が客観的合理性を失うというものでもないから、被告代表者が原告を被告から排除する目的で本件解雇に及んだとしても、そのことは前記(4)の認定を左右するものではない。

(二) 本件解雇の本件就業規則の該当性について

(1) 原告は、本件解雇の理由を成す原告による経費の不正請求及び不正精算は本件就業規則四三条二号にいう「越権専断の行為を行い職場の秩序を乱した者」に当たると主張する。

「越権」とは「その人の権限をこえてことを行うこと」をいい、「専断」とは「自分だけの考えで物事を取り決めること」をいうから、「越権専断の行為」とは「自分だけの考えでその有する権限をこえてことを行いものごとを取り決めること」をいうものと解されるところ、原告は営業担当の社員として医師や取引先と飲食しながら打合せをしたり医師や取引先を接待したりする場合にはその飲食や接待に要する費用を立替払いし、後日被告に対し会議費又は交際費の名目でその費用の支払を申請し、被告からその支払を受けることができるものとされていた(前記第三の一1(二))が、原告が被告の取締役である與野又は被告の他の社員との飲食に要した費用が被告において会議費又は交際費の名目による支出が許された費用に当たらないことは明らかであるから、原告が被告の取締役である與野又は被告の他の社員との飲食に要した費用について被告に対し会議費又は交際費の名目でその費用の支払を申請し被告からその支払を受けることは、原告がその有する権限をこえて行ったことというべきであり、また、原告が右の申請をするに当たっていちいち與野の指示を仰いでその指示に従って申請をしていたことは認められないことからすれば、原告が被告の取締役である與野又は被告の他の社員との飲食に要した費用について被告に対し会議費又は交際費の名目でその費用の支払を申請し被告からその支払を受けることは、原告が自分だけの考えで取り決めたことというべきであって、そうであるとすると、原告が被告の取締役である與野又は被告の他の社員との飲食に要した費用について被告に対し会議費又は交際費の名目でその費用の支払を申請し被告からその支払を受けることは、原告による「越権専断の行為」に当たるということができる。

しかし、本件就業規則四三条二号においては「職場の秩序を乱した」という結果の発生が必要とされているが、被告の各部署に配属されている社員が効率的かつ円滑に職務を遂行するにはその部署に一定の秩序が存することが必要であり、本件就業規則四三条二号にいう「職場の秩序」とは右に述べたような意味での「秩序」を指すものと解されるところ、原告による経費の不正請求及び不正精算は公然と行われたわけではないから、これによって「職場の秩序を乱した」とは認められない。

したがって、本件解雇の理由を成す原告の非違行為が原告による経費の不正請求及び不正精算である以上、これが本件就業規則四三条二号にいう「越権専断の行為を行い職場の秩序を乱した者」に当たるということはできない。

また、本件解雇の理由を成す原告による経費の不正請求及び不正精算が本件就業規則四三条一号、三号ないし六号のいずれにも該当しないことも明らかである。

(2) ところで、本件就業規則四三条は「社員が次の各号の一つに該当するときは、懲戒解雇処分とします」と規定し、その七号として「その他各号に準ずる行為があった者」を挙げている(前記第二の二4(五))が、一号から六号まではいずれも社員が行った非違行為を理由に当該社員を懲戒解雇する場合について定めた規定であり(前記第二の二4(五))、右の各号は、要するに、社員の行った非違行為の内容、程度に照らせば、そのような非違行為を行った社員から労務の提供を受けることを目的として当該社員を雇用し続けることは企業秩序維持の観点から到底容認することができないことから当該社員を解雇することとした規定であると考えられ、そうであるとすると、七号が一号から六号までの定めを受けて「その他各号に準ずる行為があった者」について懲戒解雇することを定めていることからすれば、七号は一号から六号までに定めた非違行為以外の非違行為で、かつ、そのような非違行為を行った社員から労務の提供を受けることを目的として当該社員を雇用し続けることが企業秩序維持の観点から到底容認することができない程度及び内容の非違行為を懲戒解雇事由とする定めであると解される。

もっとも、七号を右のように解することは、一号ないし六号に該当しない事由についてはすべて七号に該当するものとして、懲戒解雇事由を広範に認めるべきであるということを意味するものではない。なぜなら、一般に使用者が労働者に対し懲戒解雇を含め懲戒権を行使することができるかという点については、使用者と労働者との間の合意若しくは就業規則において何らの定めがない場合であってもこれをなし得ると解するのは相当ではなく、右のような合意若しくは就業規則において、懲戒の事由、種類、手続などが定められている場合に限り、使用者はこれをなし得ると解すべきであり、そうであるとすると、就業規則に明示された懲戒解雇事由というのは、これに該当する行為が行われた場合にはじめて懲戒権が行使されるということを示すものであって、限定列挙と解すべきであり、したがって、七号のように「その他各号に準ずる行為があった者」などというような抽象的表現の概括条項が設けられている場合に、このような条項に該当するというためには、懲戒の対象となる当該行為が、それ以外に列挙された事由と近似した内容のものであることのほか、企業秩序維持の観点からそれらと同程度の反価値性を有するこども必要であると解すべきだからである。

(3) そこで、右(2)のような観点から本件解雇の理由を成す原告による経費の不正請求及び不正精算が本件就業規則四三条七号に該当するかどうかについて検討する。

被告の社員が経費を不正に請求し、又は、不正に経費の精算を受けることは本件就業規則四三条二号にいう「越権専断の行為を行」うことには該当するのであって、ただ経費の不正請求及び不正精算が公然と行われない限りは、それによって「職場の秩序を乱した」とはいえないのであるが、公然と行われなかった経費の不正請求及び不正精算が後日発覚したにもかかわらず、被告がその社員の責任を追及しないままその社員との雇用契約を継続したとすれば、経費の不正請求及び不正精算をした社員の責任を追及しないまま雇用契約を継続し続けることが被告の他の社員に与える影響は大であり、かえって同種の非違行為が誘発されるなどといった企業秩序を乱す結果を招来するおそれが大というべきであって、そうであるとすると、経費の不正請求及び不正精算が公然と行われなかったとしても、それが後日発覚した場合には、経費の不正請求及び不正精算という「越権専断の行為」によって企業秩序が乱されるおそれがあり得るのであるから、企業秩序維持という観点からすれば、経費の不正請求及び不正精算が公然と行われなかったが、それが後日発覚したという場合はそれが公然と行われた場合に近似しているということができるのであって、経費の不正請求及び不正精算が公然と行われた場合が本件就業規則四三条二号にいう「越権専断の行為を行い職場の秩序を乱した」場合に当たることは、これまでに認定、説示したことから明らかであること、ところで、本件就業規則四二条は「社員が次の各号の一つに該当するときは、減給、出勤停止処分とします」と規定し、その一号として「故意または重大な過失により会社に有形無形の損害を与えた者」を挙げている(前記第二の二4(四))ところ、被告の社員が経費を不正に請求し、かつ、不正に経費の精算を受けた場合には、被告は社員の故意によって経費の支払という有形の損害を被ることになると解されるが、そのような場合を懲戒解雇事由であるとして定めた規定は本件就業規則四三条一号から六号までには見当たらないこと、しかし、被告が現実に損害を被っている上、その請求に係る金額及び回数並びに請求の態様などを勘案すれば、被告としては企業秩序維持の観点から不正請求をし、かつ、不正精算を受けた社員との雇用契約を打ち切りたいと考えることは無理からぬことであるというべき場合はあり得るものと考えられるところ、被告においては、被告の社員が経費を不正に請求し、かつ、不正に経費の精算を受けた場合について、当該社員が精算を受けた金額、請求の回数及び態様などの点にかかわらず、およそ被告の社員が経費を不正に請求し、かつ、不正に経費の精算を受けた場合についてはすべて本件就業規則四二条一号に該当するものとして処理する方針であったことは必ずしもうかがわれないこと、被告の社員が経費を不正に請求し、かつ、不正に経費の精算を受けた場合については、請求した金額、精算を受けた金額、請求の回数及び態様などのいかんによっては、企業秩序維持の観点から到底容認できないものとして、本件就業規則四三条一号から六号までに定める事由と同程度の反価値性を有するということができると考えられること、社員が不正に経費の請求をしたが、経費の精算を受けるまでには至らなかった場合には、本件就業規則四二条一号には該当しないことになるから、その場合には本件就業規則四二条一号に該当するとして懲戒権を行使することはできないが、被告が現実に損害を被ってはいないとしても、その請求に係る金額及び回数並びに請求の態様などのいかんによっては、被告としては企業秩序維持の観点から不正請求をした社員との雇用契約を打ち切りたいと考えることは無理からぬことであるというべき場合はあり得るものと考えられるところ、そのような場合を懲戒解雇事由であるとして定めた規定は本件就業規則四三条一号から六号までには見当たらないこと、しかし、被告の社員が経費を不正に請求したが、経費の精算を受けるまでには至らなかったことについては、請求した金額、精算を受けた金額、請求の回数及び態様などのいかんにかかわらず、すべて懲戒権の行使の対象とはしないものとして処理する方針であったことも必ずしもうかがわれないこと、被告の社員が経費を不正に請求したが、経費の精算を受けるまでには至らなかったことについては、請求した金額、精算を受けた金額、請求の回数及び態様などのいかんによっては、企業秩序維持の観点から到底容認できないものとして、本件就業規則四三条一号から六号までに定める事由と同程度の反価値性を有するということができると考えられること、以上の点に照らせば、被告の社員が経費を不正に請求し、かつ、不正に経費の精算を受けたこと、被告の社員が経費を不正に請求したが、経費の精算を受けるまでには至らなかったことは、本件就業規則四三条七号に該当する場合があり得るものと解される。

そして、前記第三の一2(一)(4)で認定、説示したことに照らせば、原告による経費の不正請求及び不正精算は本件就業規則四三条七号に該当するものというべきである。

(4) 以上によれば、本件解雇の理由を成す原告による経費の不正請求及び不正精算は本件就業規則四三条七号にいう「その他各号に準ずる行為があった者」に該当するものというべきである。

なお、被告が主張する本件就業規則上の根拠は四三条二号であって、四三条七号ではないが、これは単に処分の根拠となる本件就業規則の条文の適用が誤っていただけにすぎず、このことは本件解雇の効力に何らの消長を来すものではない。

(三) 本件解雇の手続上の瑕疵の有無について

(1) 原告は、懲戒解雇をするに当たっては被解雇者を聴聞しその弁明と釈明の機会を十分に与えるべきであるところ、本件解雇に当たって原告はそのような機会は与えられていないから、本件解雇は公正な事前手続が履践されていないという点において無効であると主張する。

しかし、被告代表者は平成一〇年一一月二日原告に対し、原告から提出された会議費使用明細書及び交際費使用明細書について飲食した相手方として記載された者と実際に飲食した相手方とが違っており、これは横領に当たることを指摘した上で、会議費使用明細書及び交際費使用明細書について飲食した相手方として記載された者と実際に飲食した相手方とが違っていないことが立証できるのなら立証するよう求めたが、原告はその場においてもその後も何の弁解もしなかった(前記第三の一1(一三))というのであり、このように被告は原告に一応弁解の機会を与えているから、原告の右の主張はその前提を欠いており、採用できない。

(2) 原告は、解雇、特に懲戒解雇は被解雇者において重大な生活上の影響を受ける問題であるとともに社会的名誉も毀損するものであるところ、被告では被告代表者の外に常勤の取締役である與野がいるのであるから、この両名の合議によって原告を懲戒処分に処するかどうか決定すべきであるにもかかわらず、被告代表者は與野に相談もせずに本件解雇に及んでいるのであって、本件解雇は慎重な合議の結果に基づいて決定されたものではないという点において無効であると主張する。

しかし、被告代表者が本件解雇を決断する際に本件解雇の件を與野には相談していない(前記第三の一1(一四))が、そうであるからといって、そのことから直ちに本件解雇が解雇権の濫用となるものではないことは明らかである。原告の右の主張は採用できない。

(3) 原告が、その本人尋問において、與野と対立している被告代表者は原告が與野と示し合わせていると考えたことがら、原告を被告から排除する目的で本件解雇に及んだという趣旨の供述をしていること、被告代表者は本件解雇当時原告が與野の手足となって被告代表者を被告から排除することを企てていると考えて、その企てが実現する前に與野の手足となっている原告を被告から排除する目的で本件解雇に及んだという可能性も考えられないではないことは、前記第三の一2(二)(5)のとおりであるが、そうであるからといって、そのことから直ちに本件解雇が解雇権の濫用として無効であるということはできない。

(四) 小括

以上によれば、本件解雇が権利の濫用であるとして無効であるということはできない。

二  結論

以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求はいずれも理由がない。

(裁判官 鈴木正紀)

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